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東京家庭裁判所 昭和40年(家)5669号 審判

国籍 アメリカ合衆国フロリダ州 住所 東京都

申立人 ロバート・リイ・クリーヴランド(仮名) 外一名

国籍 アメリカ合衆国オハイオ州 居所 申立人等に同じ

事件本人 ジョン・アレクサンダー・ハリス(仮名)

主文

申立人らが事件本人を養子とすることを許可する。

理由

一、申立人らは、主文と同旨の審判を求め、その理由として述べる要旨は、

(一)  申立人ロバート・リイ・クリーヴランド・ジュニア(以下、申立人クリーヴランドと略称する。)と申立人ターナエリザベス・クリーヴランド(以下、申立人クリーヴランド夫人と略称する。)とは、一九四八年一〇月一七日婚姻した、アメリカ合衆国の国籍を有する夫婦である。

(二)  事件本人は、申立人クリーヴランド夫人の甥であるが、その両親とも死亡し、孤児となつた未成年者である。

(三)  申立人らは、事件本人を自分らの子として養育しようと決心し、現に事件本人を引き取つているので、正式に養子縁組の許可を求めるため、本申立に及んだというにある。

二、そこで、審案するに、申立人ら提出の各疎明書類、家庭裁判所調査官大野輝房の調査報告書並びに申立人両名および事件本人に対する各審問の結果を綜合すると、

(一)  申立人クリーヴランド申立人クリーヴランド夫人とは一九四八年一〇月一七日フイリッピン国マニラ市において婚姻した、アメリカ合衆国の国籍を有する(申立人クリーヴランド夫人は、婚姻当時はフイリッピン国籍を有していたが、一九五七年八月アメリカ合衆国国籍を取得した。)夫婦であるが、一九四九年一月来日し、爾来日本に滞在し、申立人クリーヴランドは現在在日米軍○○基地の兵站センターに物資検査官(軍属)として勤務し、申立人クリーヴランド夫人並びに同夫人との間に儲けた三男一女とともに肩書住所に居住していること

(二)  事件本人は、一九四九年六月一一日にアメリカ合衆国オハイオ州オタワ郡ポート・クリントン市においてジェームス・エム・ハリスを父とし、ケーリ・クラーレンス・シェトールを母として出生したアメリカ合衆国の国籍を有する未成年者であるが、母は事件本人出生後間もなく死亡し、父に育てられていたところ、父が一九六四年八月七日腎臓病で死亡し、孤児となつたため、以後ミシガン州のナショナル・ホームにおいて保護されていたこと

(三)  ところが、事件本人の母の妹が申立人クリーヴランド夫人で、事件本人は申立人クリーヴランド夫人の甥にあたり、事件本人の父と申立人クリーヴランドとは友人であつた関係から、申立人らは、事件本人の父が死亡し、事件本人が孤児となつたことを知つた後、相談のうえ、事件本人を引き取つて、自分等の子として養育しようと決心し、前記施設に連絡のうえ、オハイオ州オタワ郡少年検認裁判所判事の同意をえて、事件本人を日本に渡航させて一九六五年五月四日これを引き取り、事件本人は現に申立人ら一家とともに生活していること

をそれぞれ認めることができる。

三、右認定の事実からすると、養親となるべき申立人両名および養子となるべき事件本人は、いずれもアメリカ合衆国人であつて、本件はいわゆる渉外養子縁組事件であるので、まずその管轄権について考察するに、養子となるべき事件本人はいまだ日本に住所を有しているとはいえないことは明らかであるが、養親となるべき申立人クリーヴランドは米軍軍属であり、申立人クリーヴランド夫人はその妻であるので、養親となるべき申立人らも果して日本に住所を有するといえるかどうか疑問を生ずる。しかしながら、申立人クリーヴランドは軍属とはいえ、前記認定の如く、一九四九年一月来日以来既に一五年余日本に滞在しているうえ、家庭裁判所調査官大野輝房の調査報告書および申立人クリーヴランドに対する審問の結果によれば、申立人クリーヴランドの物資検査官たる職務の性質、申立人ら一家の居住の実態等から現住居において民間人(シビリアン)とほとんど変らない生活を営み、不確定期間日本に生活の本拠を定めて永住しているものと認められ、したがつて、申立人両名は日本に住所を有しているものというべく、養親たるべき者の住所が日本に存する本件養子縁組事件については、日本の裁判所が裁判権を有し、当家庭裁判所にその管轄権があることは明らかである。

四、次に、本件養子縁組の準拠法について考察するに、わが法例第一九条第一項によれば、養子縁組の要件については、各当事者につきその本国法によるべきものであり、申立人らも事件本人も、いずれもアメリカ合衆国人である本件養子縁組は、アメリカ合衆国法によるべきであるが、アメリカ合衆国は各州によりそれぞれ法律を異にするいわゆる不統一法国であるので、養親たるべき申立人両名についてはフロリダ州法、養子たるべき事件本人についてはオハイオ州法がそれぞれ適用されることになる。ところが、養子縁組に関するアメリカ合衆国国際私法については、判例により、一般に養子または養親の住所のある州(または国)が養子決定の管轄権を有し、その際の準拠法は当該州(または国)の法律すなわち、法廷地法であることが認められており、この点は、フロリダ州においても、オハイオ州においても同様であると解されるので、養親たるべき申立人両名が日本に住所を有すること前記三において認定のとおりである。本件養子縁組については、結局法例第二九条により、養親となるべき者、養子となるべき者のいずれの側にも、準拠法として日本民法が適用されるものといわなければならない。

五、よつて、日本民法によつて審査するに、申立人らが事件本人を養子とするに妨げとなるべき事情はなく、養子縁組の成立は、前記二において認定した事実に徴し、かつ、家庭裁判所調査官大野輝房の調査報告書によつて、事件本人の福祉に合致するものと認められるので、本件申立は理由があるから、これを許可することとし、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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